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いま自分のいるこの場所がほんとうの自分の居場所ではない、と誰もが一度ならず思い、ふと二重生活を夢見たりするものだが、この映画の登場人物たちのほぼすべては、そういう二重生活にじっさいに足を踏み入れ、夢にまどろみはしたものの、案の定その夢はゆっくりと時間をかけて破れていく。

そうなるとわかっている夢の破綻までの引き延ばされた時間が、この映画をこの上なくロマンチックに仕立て上げる。私自身は、ふだんそういう叙情性を好まないが、この映画がギリギリのところで救われているとすれば、それは作者が破綻そのものにきちんと具体的なまなざしを向けているからだろう。

離婚届や蝶の絵を目の前にして、登場人物たちはダブルライフの儚い夢から覚め、いまここに立ち戻った自分をいまそこで意識しているのだ。結局のところ、ひとつの今とひとつのここと身ひとつがあるばかりなのだ。

万田邦敏(映画監督)

『ダブル・ライフ』は、是枝裕和を継承し、濱口竜介と同時代に生きる、余園園が映し出す女性身体の物語。詩織は「演じること」「触れること」によって自分自身の身体の重心を取り戻す。ダンスする彼女の身体が、複雑な曲線をえがくように歓びに満ちた運動をスクリーンに投影するとき、私たちは深い感動にいざなわれるだろう。

北村匡平(映画研究者/批評家)

何もかも情報、データとしてやり取りされる社会では、
人間さえも交換され、代替可能な存在として振る舞うことになる。
SNS などでの脳だけで繋がる世界から、
身体的なつながりを回復しないと、人はますます孤独になるでしょう。
暗いトンネルを抜けて、蝶のように舞いたいですね。

七里圭(映画監督)

ある種の物語パターンをなぞりながらも通常のメロドラマに回収されないのが、本作の最大の魅力だ。特にヒロインの身体言語は力強いセリフとなり心に沁みる。初の長編と思えない若き監督の手腕が光る一作なのだ。

晏妮(映画研究者/日本映画大学特任教授)

アルゼンチンタンゴダンスの生徒さんとして通っていらっしゃるとっても若く可愛らしく聡明な余園園さんが監督、演出、脚本、編集を全て手掛けらたという作品『ダブル・ライフ』。
一気に鑑賞!すぐにタンゴダンスのパートナーにも勧めてすぐに再鑑賞!翌日には他の生徒さん方々にも是非観て!と皆さんに。
あえて前情報なしに観ましたが、シンプルな映像美に、ネタバレもあるので控えますが、どんどん魅力的に見えてくる主役の女性と仮の夫になるリアリティある繊細な演技、ストーリーに隠された登場人物のそれぞれの想いと選択が、静かに優しく伝わってきました。特にとても意表をついた箇所があるのですが、それは観てのお楽しみに。
何か満たされない不安気な日常の中で、主人公が独自のささやかだけれど自分の心を満たしてくれるかもしれないと選んだ非日常、空気感やその描写のディテールが主人公の心の揺れや迷い、空虚感が丁寧に描かれていました。
私が講師をしているアルゼンチンタンゴダンスは目の前のお相手と繋がることがとても大事な要素であり基本。言葉を交わせずの人と人とのコミュニケーションです。
感覚的なことで説明することは難しいですが、恋愛も人生も生きていく上で大事なことを再認識され、深い部分で何かを伝えてくる才能豊かな余園園さんのそんな素敵な映画に出会えて、とても嬉しく思いました。
是非、多くの皆さんに観てほしいです!! 

Sae&JuanCarlos(アルゼンチンタンゴ講師 /銀座リベルタンゴ)

静かな部屋の中に落ちている生活を拾い集めるように、それぞれの心が交差している。
孤独であることを許されたような、不思議な感覚になった。

内藤春(俳優)

リアルライフがフェイクライフなら、主人公のようにフェイクライフに身を置きたくなるかもしれない。その先にどんな現実が待ち構えているのか、そんなことはお構いなしに今を満たして欲しがる彼女を止める術を、私は持ち合わせていない。

瑚海みどり(映画監督・俳優)

ダブルライフを営む人々は皆どこか欠けており、危うくて胸がヒリつきますが、その切実で丁寧な描かれ方にはどこか慈しみや温もりを感じます。 音楽が、そんな世界観を表現する一助になっていれば嬉しいです。

川島陽(ミュージシャン)

社会的、個人的、経験的事情がなくなったとき、人と人はどのようなコミュニケーションができるんだろう。この作品の中に自分を見つけるために、隅々まで何度も観たい。

梅田誠弘(俳優)

Director